生産環境農学

T-PIRC farm

水稲生産における生産性の向上と地球温暖化緩和を目的とした籾殻くん炭利用

 生物資源を炭化処理したバイオ炭(biochar)の農地への施用は土壌炭素貯留効果があることから、地球温暖化対策の一つとして注目されている。日本では古くから籾殻くん炭が利用されているものの、その利用は限定的で、年間200万t排出されるもみ殻の35%は廃棄されている。本研究では籾殻くん炭をバイオ炭という新たな視点で評価して、未利用生物資源である籾殻を活用した循環型農業の構築を目指した。黒ぼく水田土壌を用いたポット試験と圃場試験を行い、籾殻くん炭の施用量が玄米収量、温室効果ガス排出および土壌炭素貯留に及ぼす影響を評価した。
 玄米収量は、ポット試験では籾殻くん炭の施用量(0~40 g/pot)が増えるに従い増加した。このときイネ茎葉中のケイ酸吸収量が有意に増加したことから、籾殻くん炭がケイ酸質肥料として働き、水稲収量を高めたと考えられた。一方、圃場試験では籾殻くん炭を0~40 t/ha施用したところ、ケイ酸吸収量、稲わら収量が共に増加したものの、玄米収量に関しては増加が認められなかった。
 水稲栽培期間中のメタン排出量は籾殻くん炭施用量が増えるに従い増加する傾向にあったが、対照区との有意差は無く、ポットおよび圃場試験においてメタン排出量と籾殻くん炭施用量との間に明確な相関関係は認められなかった。水稲栽培後の土壌炭素含量は籾殻くん炭の施用量に比例して増加し、その増加量は、籾殻くん炭由来の炭素が土壌中で分解されずにそのまま残存した量に相当した。対照区と比較した温室効果ガス排出増加量と土壌炭素貯留増加量の二酸化炭素換算値(CO2-eq)収支を求めたところ、籾殻くん炭40 t/haの施用量で10a当たり約5 t CO2-eqを土壌中に取り込んだものと推計された。
 以上より、籾殻くん炭の黒ぼく土水田への施用は、水稲収量を低下させることなく、土壌炭素貯留を促進し、地球温暖化緩和に寄与することが明らかとなった。このことから、稲作地域で発生する籾殻を籾殻くん炭として圃場に還元することで、イネが強壮に生育し、地球温暖化を抑制できる循環型農業の構築に資すると考える。

既発表論文
Koyama, S., F. Inazaki, K. Minamikawa, M. Kato and H. Hayashi. Increase in soil carbon sequestration using rice husk charcoal without stimulating CH4 and N2O emissions in an Andosol Paddy field in Japan. Soil Science and Plant Nutrition 61(5): 873-884.2016.
Koyama S., T. Katagiri, K. Minamikawa, M. Kato and H. Hayashi. Effects of Rice Husk Charcoal Application on rice yield, methane emission, and soil carbon sequestration in Andosol paddy soil. JARQ 50(4):319-327. 2016.
Koyama, S. and H. Hayashi. Rice yield and soil carbon dynamics over three years of applying rice husk charcoal to an Andosol paddy field. Plant Production Science 20(2):176-182. 2017.
Koyama, S. and H. Hayashi. Application of rice husk charcoal increased the silicon content of rice plants and improved carbon sequestration in Andosol paddy soil (Invited speech). The 3rd International Conference on Agricultural and Biological Science (ABS2017). Qingdao, China. June 28, 2017.

リビングマルチを用いた水田の複作方式

 20世紀農業は、農業の化学化および機械化に伴い労働生産性、土地生産性が飛躍的に向上し、生産量が増大した。そこでは生産目的の作物のみを栽培し、他の植物は雑草として排除する単作が指向されてきたが、この農業生態系を維持するためには除草剤や殺虫剤などの農薬の使用が不可欠であった。一方で有限な土地を永続的に使用して営農する持続可能な農業生産方式に関心が高まり、様々な方策がとられるようにもなってきた。その一つに被覆作物を用いた生産方式が、地力を高めたり土壌浸食を防止したり、あるいは生物的に雑草を防除する方策として利用されている。被覆作物は作付体系の中で休閑期に作付ける場合と主作物の栽培時期に同時に栽培する場合があり、畑作ではいずれの事例でも利用が進んでいる。一方、水稲栽培においては、イネの収穫後にレンゲなどを栽培する例は見られるものの、イネ栽培期間中に間作あるいは混作として被覆作物を栽培する例は見られない。本研究では水稲生産に被覆植物を導入した複作方式を提案し、その特性を評価する中で、環境負荷の少ない新たな水稲生産方式を検討した。
 ホテイアオイを導入した先行研究では、イネの半分の栽植密度まではホテイアオイを導入しても籾収量の大幅な低下はみられず、炭素固定量も大きく向上する効果がみられた。しかしホテイアオイは外来雑草であり、生育中期以降はイネと光の競合を起こし、イネ収量に大きく影響するばかりか、水田への導入も困難で、収穫作業の障害ともなり、実用化することはできない。そこで本研究では日本在来のウキクサ(Spyrodela polyrhiza)やアオウキクサ(Lemna aoukikusa)を被覆植物として検討した。両種とも熱帯から温帯の淡水域に分布し、水田や小川、ため池で一般的に観察される水面を浮遊する植物である。
 イネ移植後7日目(7DAT)にウキクサを田面の75%被覆量で投入した結果、供試した水稲5品種で、穂数が増加し玄米収量が増加した。赤米を用いて被覆植物の投入時期および投入量の影響を検討した結果、7DATに50%および75%被覆量の投入で玄米収量が10%増大した。投入時期について75%被覆率で検討した結果、0,7,14、21DATのいずれの時期に投入しても玄米収量が7~11%増加し、その増加程度は投入時期が早いほど大きかった。ウキクサ、アオウキクサの複作(75%被覆量、投入時期7DAT)は、ホテイアオイ(12個体/m2、7DAT)、米ぬか(0.2k/m2、7DAT)、ソバ殻(0.13kg/m2、7DAT)、紙マルチ(0DAT)と比較して成熟期における雑草個体数が最も少なく、生育期間中の田面積算日射量と雑草発生個体数との間には有意な正の相関が認められた。成熟期における雑草乾物重はウキクサ複作区で最も少なかった。玄米収量は、手除草区が最も高かったが、ウキクサ、アオウキクサ複作区は 紙マルチ区と同等に増収した。イネ全生育期間中の田面積算日射量は、ウキクサ複作区で減少し、これは出穂期までの栄養成長期間中の減少に起因していた。積算日射量と雑草個体数との間には有意な正の相関がみられたが、両者の相関係数は0~4WATで最も高く、積算期間が延長するに従い低下した。
 ウキクサまたはアオウキクサ複作区では、被覆による田面受光量の直接的な低減作用により水田雑草を抑制し、イネを旺盛に成育させて玄米収量を増加させることが明らかとなり、除草剤を要しないことから、生産コストも低減できる持続可能な水稲生産方式の一つとして有望であることが明らかとなった。

既発表論文
Mananya, P. and H. Hayashi. Influence of living mulch on weed growth and rice productivity in paddy rice fields. J. ISSAAS 21(2): 104-118. 2015.
H. Hayashi and P. Mananya. Paddy rice production using living mulch (Invited speech, The best oral presentation). The 4th International Conference on Agricultural and Biological Science (ABS2018). Hangzhou, China. June 28, 2018.

減農薬減化学肥料栽培水稲の物質生産および品質の解析

 農業現場における環境負荷低減への関心の高まりから、化学合成農薬および化学合成窒素肥料の使用量を低減する特別栽培の面積が増加している。T-PIRC農場水田でも減農薬・減化学肥料栽培を実施しており、特に水稲品種コシヒカリの成長、収量、品質等を継続調査することにより、有機質肥料の連用および化学合成農薬の削減が及ぼす影響を物質生産と食味品質の面から明らかにしようとしている。その結果、減農薬減化学肥料で栽培した米の収量は慣行栽培に比べて低下するが、食味評価値は高いことがわかった。今後は収量低下を抑えつつ、高品質を維持する栽培方法の構築を目指すとともに、栽植距離を大きくとることにより苗箱数の削減を通じた省力化を図りつつ良品質米の安定生産技術の開発に取り組んでいる。

コシヒカリの減農薬減化学肥料栽培

低コスト省力生産に向けた飼料用イネ疎植栽培の評価

 水田の有効活用と飼料自給率向上のために飼料用イネの栽培面積が急増している中で、生産コストの低減化が大きな課題であり、既存の施設機械体系を生かす方法として株間を広くとる疎植栽培が有望な方法と考えられている。本研究では、籾収量向上を目指す子実多収型と、茎葉多収を優先した茎葉多収型の異なる特徴をもつ飼料イネ専用品種について、栽植密度による生育、乾物収量および飼料成分への影響を調査した。
 草丈は両品種とも栽植密度間に差はなく推移したが、疎植では株当たり茎数が生育中期以降多くなることによって、単位面積当たり茎数の栽植密度間差は生育時期が進むにつれて縮小した。出穂期および黄熟期における地上部乾物重は栽植密度間に有意差はなく、疎植栽培の乾物収量は標準植とほぼ同等になった。両品種とも疎植によって葉身長、葉身幅および稈径が大きくなる傾向がみられた。単位面積当たり茎数は疎植でやや少ないにもかかわらず、乾物収量はほぼ同等になっていることから、疎植では株当たり茎数増加による単位面積当たり穂数の確保だけでなく、茎の大型化により群落葉面積がほぼ同等となることによって乾物生産が補償されたものと考えられる。つまり、疎植栽培により1株当たり茎数の増加と茎の大型化により単位面積当たり葉面積が補償されることによって乾物生産が標準植と同等になることがわかった。疎植栽培での稈径増大にみられるような形態的変化が、飼料品質に影響を及ぼす可能性が考えられたが、飼料成分、特に粗タンパク質と繊維含有率には栽植密度間差がみられなかったことから、疎植栽培でも標植と同等な品質の飼料を生産できることが明らかになった。
 飼料用イネ品種の特徴にかかわらず、栽植密度を半分にする疎植栽培において標準植と同等の乾物収量と飼料品質が得られることが明らかとなり、飼料用イネの低コスト生産に疎植栽培が利用できる可能性が示された。飼料用イネとしては各地域向けに熟期、シンク容量、籾サイズなどの異なる多彩な品種が育成されている。特に極端に穂の割合が小さい茎葉多収型の品種について乾物収量およびサイレージ品質の検討が今後は必要であろう。

草型の異なる飼料用イネ専用品種
(左:クサホナミ、右:リーフスター)

ソバの倒伏

 ソバは日本の食文化を代表する作物の一つであるが、単収は低く、環境要因に対する抵抗性も低い。様々な要因がソバの単収に影響を及ぼすが、その中でも倒伏は生育のさまざまな時期に影響を及ぼしている。
 倒伏の発生は品種により異なり、その際、挫折抵抗値との間に有意な負の相関がみられている。また、重心や茎の肉厚も強く関係していることが明らかになってきている。
 ソバの倒伏には個体特性が関係するだけでなく、個体群としてどのように関係するかも大きな関心事である。そこでこの様相をドローンを使って評価・解析することで、今まで個体でしか捉えられなかった倒伏を、圃場レベルで評価することにもチャレンジしている。

既発表論文
林 久喜・樋口大祐・坂井直樹.草型の異なる自殖性ソバ系統の倒伏関連形質.筑波大農林研報 22:21-32. 2009.

新たな果樹栽培法の開発―「ジョイント仕立て法」とその樹体生理

 複数の果樹の主枝部を連続的に接木で連結し、直線状の集合樹として仕立て、骨格枝の早期確立や樹冠構造の均一化、作業動線の直線化を可能とする「樹体ジョイント仕立て」について、樹体間の養水分の移動様式や樹勢の均一化・花芽着生への影響に注目し研究を行っています。

ニホンナシジョイント樹形における果実品質の樹冠内変動について

 ニホンナシ栽培における慣行の平棚仕立て栽培では樹の基部と先端部では樹勢に差があり、樹冠内の果実の成長や成熟、品質にばらつきが生じてしまいます。一方、ジョイント樹形では水平に誘引した主枝先端部と隣接樹の主枝基部とを接ぎ木することにより、先端部の生育は向上、反対に基部は抑制され、樹冠内の樹勢が均一化すると考えられています。そのことにより、樹内の果実の成長や成熟が一様になり、収穫時の果実品質のばらつきが無くなることが期待されます。
 そこで、ジョイント仕立てにおける果実品質のばらつきの大きさに注目し調査を行ったところ、ジョイント樹形区は平棚仕立て区より果実品質の多くの項目において、同処理区内における品質のばらつきが小さく、樹冠内の変動が抑制されました。くわえて樹冠内のLAI値、SPAD値、葉中窒素含有率においても果実品質と同様に、ジョイント樹形区で慣行栽培よりも変動係数が小さく、ばらつきが抑えられていました。これはジョイント樹形における樹冠下の光環境と樹の栄養状態の均一化が、果実品質の樹冠内変動の抑制につながった結果と考えらました。